序章   あなたの魂 (ユリギス・ブレカイチス)   霧の中 (ヘルマン・ヘッセ)  パルチザンの葬儀 (ジョナス・アイスチス)
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第9章  感 覚  

ユリギス・ブレカイチス詩  横川 秀夫
訳   松本 いずみ 朗読
 
 

 その枝々で夜をゆさぶる樹木のように
 風のなかで揺れうごく言葉をもって
 生命(いのち)よ、お前は何者であるかと尋ねながら
 私は私の腕のなかにお前を抱きしめる。
 
 いとおしみ
 そしてとりわけ
 むなしくも呼びかけ呼びかけする言葉をもって、
 感覚とは何であるか、と私は詰問する
 
 コオロギの声をもって私をあざけり
 星々の冷たい指をもって私の目を傷(いた)め
 夜は、私の叫びと私自身とを打ちのめす。
 また、感覚よ、お前は言葉を発し
 そしてその言葉は貝のようにそれ自身を閉じる。
 
 沈黙のなかへと沈みこみながら
 訊かないほうが良いのだ。
 イブを、リンゴを、蛇を覚えているか?と
 私は私自身に繰りかえす。
 イブは尋ねなかった、イブは訊きはしないし
 絶対に耳を傾けもしない。




ユリギス ブレカイチス (Jurgis Blekaitis)
リ トアニア詩人 (生存年月など一切不詳)
英語原文: リ トアニア共和国大使館 提供