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第1章 (9)

光 陰


此の身、捨て児にて御座候

捨て児の捨つるは

自ら己を捨てたるの意に候て

三界に住むなく

此の身を放擲したるの意にて候


かく思いしかば
なにゆえ明日を思い煩ふべきか

なにゆえ今日を嫌ふべきかは

いとど己に申しつけあり候て

涙もなきに候

笑いもなきに候

怒りも悲しみもこれ無きに候て

唯、一瞬の光陰の中に

此の身を置くものにて候


何事もこれ刹那のことにて御座候はば
またかくの如くありて

浮草の此の身に候ふ故

徒に死に急ぐこともなけれど

早々にみまかり申すべく念じおり候


陽は出で陽は入り
月欠けまた満ち

満天に星は移ろい

また地には花々あふれ

草木の下、獣ら栄え

水に魚ら遊び

鳥は歌い

雲は大空に流れ

風、地を這い候て

永劫の営みを続け候はば

何の未練もこれ無き身にて候


願わくば、とく此の身
かくある微塵充満の

天然の裡に

帰依し奉らんことを