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第4章 記憶 (1)

一枚の写真


いつだったか

もう十年もになるだろうか

いやもっと前だったろうか後だったろうか

そのグラビア雑誌の名前もむろん忘れたけれど

一枚の写真が

私の脳の深奥に刻まれてから久しい


アメリカはニュー・イングランドあたりの
ピューリタンのいわゆるロッグ・ハウス造りの

食堂室の内部の何気ない写真だった


まんなかに質素だけれど家族のための頑丈な食卓があり
キレイサッパリ、その上には何も置かれてはいない

あまつさえ

食卓用のあるいは団欒用の粗末で頑丈な椅子二脚

写真面の左手の壁に掛け吊るされて片づけられ

確か右手中央には窓があった

― 微塵の贅もこれ不要


モノクロ写真だったけれど
すべて木造りの

毎日毎日掃除され丁寧に磨かれた時間の集積の

端正と光がその写真に凝縮され


(私は今でも思う
あの写真を撮った人物の眼を

なんとか見てみたい、と)


自由をささえるアメリカの精神の基底には
いまだ頑として厳として

そのピューリタリズムの愛と祈りが息づいている、と

私は信ずる