いつだったか
もう十年もになるだろうか
いやもっと前だったろうか後だったろうか
そのグラビア雑誌の名前もむろん忘れたけれど
一枚の写真が
私の脳の深奥に刻まれてから久しい
アメリカはニュー・イングランドあたりの
ピューリタンのいわゆるロッグ・ハウス造りの
食堂室の内部の何気ない写真だった
まんなかに質素だけれど家族のための頑丈な食卓があり
キレイサッパリ、その上には何も置かれてはいない
あまつさえ
食卓用のあるいは団欒用の粗末で頑丈な椅子二脚
写真面の左手の壁に掛け吊るされて片づけられ
確か右手中央には窓があった
― 微塵の贅もこれ不要
モノクロ写真だったけれど
すべて木造りの
毎日毎日掃除され丁寧に磨かれた時間の集積の
端正と光がその写真に凝縮され
(私は今でも思う
あの写真を撮った人物の眼を
なんとか見てみたい、と)
自由をささえるアメリカの精神の基底には
いまだ頑として厳として
そのピューリタリズムの愛と祈りが息づいている、と
私は信ずる