小学三年になる長女が、このあいだの父の日に.書道塾で習って書いた 「父の恩」
という書を私にくれた。見ると.何とも味のある手である。「父」 は傑作だ、「の」
もまあまあだが肝心の 「恩」 になると悉くにバランスを失って.支離滅裂な様相を呈している。
「の」 の文字で墨がかすれかけたので.次の文字のために筆に墨を含ませすぎたのか 「恩」
の文字のくにがまえはたっぷりとして太く、その中に 「大」 の字がこじんまりと入れられ、その下の
「心」 になるともう壊滅的な状態を示している。
子供は正直だ、恩などという.親の手前勝手なたくらみを持て余しているようで、なんとも.哀れな気分になった。こうなるともう塾様々だ。
そんな立派な贈物を受けると.我が子よ、此の父は.余計にお前のいたいけなさが.身にしみるのだ。父はそのような.家族ごっこを好かぬ。いまだ愛を示してやる.術をも知らぬこの父に、恩などという.大それたものがあると思うか?
恩などという.世迷いごとの囲みは.突き破り蹴っ飛ばし、大きくなれ。