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第7章 プライバシー (2)

刹那の懐古


私の居間のテーブルの私が座る右側の壁に

中部地方の立体地勢図がかけられている

縮尺は二十五万分の一で

縦百センチ横巾七十五センチほどの地勢図だが

山や川や湖やの高低差の凹凸は三倍に強調されているので

中部山岳地帯の地勢の褶曲が

雄大に強調されていて見事である

その横に

今は妻の祖母の遺品となってしまった古い柱時計が掛けられていて

その時計にネジを加える折

普段は気がつかずにいたが

ふとその地勢図の片隅にある榛名山の盛り上がりが目に入った

山の頂上が大きな湖になっているその姿に気づき

一瞬の驚きをおぼえる

なぜ火山活動によって盛り上がった

あの高い山の天辺にあいた火口に

膨大な水がたまったのか

多分雨水よりも湧水によってであろうが

あの高く盛り上がった場所に

地殻はどのようにして地球の内部から水をせりあげているのか

地球という星の造化の不思議さを示していて

その一瞬の驚きが私をふっと涙ぐみたいような衝動に駆り立て

私がその麓の高崎ですごした

青春の四年間の日々に思いを走らせる

あれからもう十数年

今年、四十歳になる、

たわけた四十歳だ