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第8章 置物 (13)

鉢植え


十五センチほどのドラセナという木がぼくの家に来てから久しい

だれが命名したのか日本名を幸福の木だという

窮屈な鉢に生かせられている驚くべき生命力のその木に向かって

ぼくは問いかける

その名のとおり君は幸福か、と

 
帰りたいだろうに

太陽がギラつくどこか南の方の君が生まれた湿潤な大地に原始の森林に

トテッ腹から無残にもものの見事にフチッ切られ

ロウで傷口をおおわれてなお芽吹き葉を繁らせる

その強さその悲しさその凛々しさその美しさ

 
共にサイド・テーブルの上に並んで置かれた シャコハ
サボテンよそしてポトスよ
君たちも全くおんなじだ

置かれたその場所で無心に生きて生き抜くということの

とてつもない生命の力のけなげさを

君たちはその姿によって示しているのだ

 
感動の涙でヴェールされ霞む視力を突き抜けて伝わってくる

君たちのそうした姿のうつくしさに

ぼくの眼は潤みながらただただ瞠目するばかりだ