ドアの光
(Light on the Door)
.
オーリエンズでだったろうかコベントリーでだったろうか
私たちが最後に
すごした古い家でのことだったけど
細長い楕円形の窓のついたドア。
わずかな面にかたむく、青い光、消えそうな光、は
その瞬間に、歴史の時間の中に消え去った。
もともと、悲しみの井戸からはなにも掘ることはできない。
だから、そこにはなにもない。未成熟な森林地帯の
静かにうずまく記憶のなかの霧ではなく。
湖岸をなめるそよ風にふかれて寄せるさざ波ではなく。
うつろいゆくたおやかなスミレではなく、
うつろなスイカズラの扉でもなかった。
この悲しみはどこにでも満ちていて。なぜだろうと思うのだけど、
それらは私たちがいまだ知らない
あの光、ライラック、うつつのようによぎる斜面 ―
おもたさ。
ふるい家のなかの
このまどろみのひとときこそ、素晴らしい
思いのひととき。私たちがこがれていたもの。
まるで光りかがやくドアを開くことができるみたいに、
なかに入りこんでゆく、黒バラ色の高天井の部屋
そして、高窓のゆれ動くガラスをとおして
ちがった角度から見ると、見つけられるのは、在りうべからざる
失われた年月、すぎさった太陽の光、こだまするチャイム、ゆらめく光
可能なもの。私たちには手が届かないもの。
|
|
|
|