創設20周年記念番組 
 

 
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(1)

今から二万年前。洪積世のウイスコンシン氷河 期。 ユ−ラシア大陸に住む多くの部族は北東に 移動し、ベーリング陸橋を通って波状的にアメリカ大陸へと渡った。

新大陸での彼らは何千年もの歳月を費やし 南下を し続け、小部族ごとに南北アメリカ大陸の各地に 散 在し定住して行った。それら部族のうち、マヤ族はメソアメリカのコパンの地を中心に定着した。

七番目の花の日。天蓋をを渡る太陽と月がその軌道 を完全に同一とする日の新月の深い夜、天文学者ヤシュクックを父にその妻マルガリータを母に九番 目の娘としてママル−ナは生れた。 それは 太陽 と月とが新しく生まれ変わる日であった。夜が明け太陽が上らなければ 世界が 終焉するはずの日 であった。

人々は恐れと希望との混沌のなか、丘の上につどっ た。やがて、「見よ」 深い鮮紅色の金星を指差しながらヤシュクックが叫んだ。無数の黄金の矢が放 射し始め天蓋に満ちた。

真昼の天体のドラマは更に展開し、正午、太陽は金 の環のなかに隠れ、やがて再び生れ変り、その新たな姿を現した。人々は溢れるばかりの厳かな新 しい陽光のなかにひざまづいた。

(2)

揺りかごのなかの幼いころからママルーナはコンゴウイ ンコと共に育った。このインコはパコと名づけられてい た。彼らはいつも一緒で、互いに付かず離れず空気同士のような存在であった。彼らは聞こえない声 の領域で話した。彼らは互いの心と思いを共有していた。

マヤ族にとって太陽は森羅万象の父であり、大地は 母であり、そして地下は母の子宮であった。洞窟 は神聖な場であり、コンゴウインコは地下で暗闇と死 と戦う太陽の象徴であった。

マルガリータはママルーナに読み書きを教えた。彼 女はやがて宮殿の中央にある広場に建立されて いる記念碑に刻まれている膨大量の記録を読破 し、中でも彼女は何千年もにわたって集積されて いる天体観察の記録の虜(とりこ)になって行っ た。

ヤシュクックは折につけ彼女を天文観測台へと伴い 天文学の基本を教えた。成長した彼女はヤシュク ックと肩をならべるほど天文学に精通するように なっていた。

北斗七星の周辺から降る異常なまでの夥しい数の 流れ星の耀きに天は満ちていた。ママルーナは目を南方んj転じた。はるか天蓋の南端の奥に目に は見えないなにかが金色に耀いているように感じ た。それが何であるかという不思議な思いから彼 女は心のなかでなにごとかを呟いていた。

ある日彼女はヤシュクックに言った。天蓋には白金に輝くスポットと絶対的に黒いそれとの二つがある、と。そしてまた、天界は立体ではなく何次元もの世界で成り立っている、と。ヤシュクックは笑って相手にはしなかった。

(3)
アイマラ族の青年ナパクスコはチチカカの湖畔で煌 く 星々の下に立っていた。天は南十字星のあ た りか ら降る夥しい数の流れ星にあふれていた。はるか方、天蓋の北の末端の奥から来るプラチ ナの純白の声が自分を呼んでいる、とナパクスコ には思われた。

ナパクスコは生れ故郷のチチカカを去り北を目指し アンデスの山を下って行った。平地の森林地帯に さしかかったころ、一羽のコンゴウインコに出会っ た。その鳥は付かず離れず後になり先になりナパ クスコ共に進んだ。ナパクスコはその鳥をララと 名づけた。

彼らはジャングル地帯へと入って行った。ナタで道を 切り開き進んで行った。北の方角へとナパクスコ を導きながらララの動きは活発化した。

彼の前方を飛翔しながら突然ララが鋭い鳴き声をあ げた。一頭のジャガーがナパクスコを待ち伏せし 隙を狙っていた。夥しい数のコンゴウインコがナパ クスコとジャガーの間の中空を飛び交いジャガー に向って鋭くけたたしい威嚇の叫び声をあびせ た。一羽の巨大なコンゴウインコが音もなく背後 から滑空しジャガーの腰骨の間の急所をその鋭 い嘴で突き刺した。ジャガーは後ろ足を引きず り ながら逃げ去った。

jジャングルを切り抜けると肥沃な草原であった。ララ はナパクスコの肩にとまり頬づけをしながらプラチ ナの純白の地は近いと言葉ではない声で言っ た。ナパクスコはうなづいた。
(4)

食人種ミード族は密かにコパンの地を包囲し、町は 重苦しい大気に覆われていた。ミード軍の隊長グ ロッソは一斉攻撃の右手を高々と挙げた。その瞬 間、太陽から目には見えない無数の黄金の矢がミードの軍隊の目と耳と喉に突き刺さり、全軍は倒れ 芋虫となった。鳥々が飛来し芋虫を啄ばんだ。町 は再び明るいプラチナの光に満ちた。住人は起っ たことについては誰も何も気付かなかった。パコ と ララだけがことの事実について知るのみであっ た。

ナパクスコはララを肩に町中へと歩み入った。道行く 人々はナパクスコとララを包む柔らかな黄金色の オーラを見た。一人の男が神の使いが来たと言っ た。噂は広がった。ここから見えるあの谷間がプ ラチナの純白の光の源だとララがナパクスコに言った。ナパクスコとララはその谷の森の中へと入って 行った。

ナパクスコは潅木に囲まれた池で沐浴をしている女 を見た。女はプラチナの純白のオーラに包まれて いた。ママルーナであった。ナパクスはこの世の ものとは思えない美しさの前にひざまづいた。 、パコとララは互いに頬を交しあった。ナパクスコはチ チカカから持ってきた黄金のネックレスをママル ーナに捧げた。ママルーナはナパクスコの求婚を 受けいれた。パコはママルーナのペンダントの一 部を切りとった。それはママルーナの偉大な祖先 の聖なる遺骨であった。ララはそれをナパクスコ の胸の肉のなかに埋めた。

人々は宮殿の中央広場に集まった。ママルーナとナ パクスコが人々の前に現れたとき、二人はプラチ ナの純白と黄金の光のなかに煌いていた。煌き は広がり広場全体を包んだ。厳粛な光のもやの なかで訪れた人々はコカの葉を噛みチチャ酒を 飲みながらママルーナとナパクスコの美しさに酔 った。

(5)

星々でいっぱいの夜、ママルーナはナパクスコを彼 女だけが知る洞窟へと導いた。場所は二人が初 めて 出会った池の上方にあった。洞窟は鈍い厳 粛な光にみちていた。中央には泉が湧いていた。 洞窟の天井は天蓋であった。泉のほとりで二人 は隣りあわせて上向きに寝ころびその天蓋を見上げていた。

北斗七星のある同じ場所にナパクスコは南十字星を 見ていた。彼女はすぐに彼はチチカカの夜空の下 にいることに気付いた。天蓋はコインの裏と表の ように二重であることを二人は理解した。二人に とって、距離には何の意味もなかった。

同じ夜、ヤシュクックは星々の動きを観測していた。 彼は天の川のなかにいまだ知られていない寄り 添うように光る二つの星を見た。一つは金色に光 り、一つはプラチナの純白であった。彼は手燭の 光をたよりにこの事実を記念碑の石に刻み込み 記録した。彼はかってママルーナが彼に言った天 体についての異論を思い出していた。

夜半、ヤシュクックは家に戻るとマルガリータにこの ことを話した。彼女は微笑んだが何も言わなかっ た。彼女は既にすべてを知っていた。二人は寝室 へと赴き深い眠りに落ちて行った。

夜が明けるとコパンの町とその周辺から人はかき消 えていた。何が起りそしてまた人々は何処に消え て行ったのか、知る人は今もいない。


 

 

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