ベイルートでの誕生


 
私たちはカンタリの洞窟のような
 
悪霊に向って
 
どんよりとしたコンクリの地中海を高速で後にする。
 
弾丸の穴が一面にあいた
 
おそらく幼児の一人か二人が中にいる
 
サミ トラドの妊婦の家を過ぎ
 
「彼女はあそこにもうそろそろ居るころだ」 と
 
私は思う
 
 
   運転手を兼務する
 
   ムラビトオン家のアリは
 
   戦争に疲れたファテの子供たちの支配地を過ぎ
 
   ポンコツのビューイックを回転させる。
 
   情報部主任の
 
   アブ ハッサンが
 
   (悲しいかな、彼はベイルートの石畳の上に散って今は亡い)
 
   私たちを止めて言う
 
   「スナイパーが建設中のタワーで動いている」
 
   しかしインド政府は
 
   スナイパーなどに怯むべからずと定めている、と
 
   私たちは言い
 
   車を進行させ続け、
 
   一方、疲れたゲリラたちは 
 
   フェニキアの大きな官邸近くで
 
   息を殺している殺し屋に追っかけの銃火をあびせ
 
   束の間、静けさを破る。
  
 
      私たちは急ぐ、
 
      往時のカウンセラーが書いた
 
      紫色や口やかましい散文のごみくずの
 
      無数の泡に歯止めをかけ
 
      ベビー ピンクやパウダー ブルーの
 
      湯船に変え
 
      灰に帰すまで
 
      残された時間はわずかあと二時間。
 
 
         そしてそれから私の思いは
 
         そこに彼女を残してきた
 
         各階ことごとくに
 
         怪我人であふれた
 
         殺菌力のあるアメリカの病院へと横道にそれ。
 
 
            入り口を入って
 
            黒褐色の月例報告書のスコアーをみつめ
 
            ゆっくりと鬱積をくすぶらせ死んでゆく。
 
 
               そしてそれから
 
               ホリデー インの前の戦車が
 
               轟音と共に爆発し、
 
               ゆっくりとした生の覚醒が
 
               私たちに再びやってくるのを
 
               見ることができるかと
 
               私はいぶかしくも考えるのだ。

 

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