高村 光太郎 特集
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刃物を研ぐ人  

松本 いずみ 朗読


 


 黙って刃物を研いでゐる。
 もう日が傾くのにまだ研いでゐる。
 裏刃とおもてをぴったり押して
 研水(とみず)をかへては又研いでゐる。
 何をいったい作るつもりか、
 そんなことさへ知らないやうに、
 一瞬の気を眉間(みけん)にあつめて
 葉のかげで刃物を研ぐ人。
 この人の袖は次第にやぶれ、
 この人の口ひげは白くなる。
 憤りか必至か無心か、
 この人はただ途方もなく
 無限級数を追ってゐる。