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第8章 置物 (12)

物と心
 


一年前のことだった

そんなにも親密な間柄ではなかったが

知り合いの一人の男が孤独な急死をとげた

 
梅雨明けも間近とて暖房器具をしまいこむため

納戸をを整理していると

棚の上に志の上紙がつけられたままの

箱に納められた一枚の絵皿に気づく

 
葬儀の一切がその男の親友の手で執り行われ賄われ

それからしばらくしてその親友の男から

送られてきたものであったが

 
心あってもなかなかにできぬこととも

また 「仏法値ふに希なり」 とも思われ

仕事部屋を外に借り空きのできた居間のサイド・テーブルの上に

その皿は飾られ

消えることのない記憶がまたひとつ

形あるものとなって

身辺に置かれることになった