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第10章 東と西 (23)

無」 の文字


僕はうかつにも

ひら仮名の 「む」 という文字は

漢字の 「無」 に由来しているものだと思っていた

念のためと思い調べてみたら 「む」 は 「武」 から来ていて

「無」 という文字とは無縁であることを知り

なあんだそうだったのか、と思った

 
「む」 の文字はさておきその 「無」 の源をたどるってみると

この文字はかなりな歴史をもっているらしく

むちゃくちゃに複雑でたくさんの形がありすぎ

なにがなんだかさっぱり判らない

手元の高価本 「てん刻字林」 によると

無の文字の書体にはその原初からそもそも異なった三体があって

 
無ハ亡ナリ、(次の字体の)無ハ豊ナリ、説文説ノ説クトコロ、此ノ

如シトイ ヘドモ三代文字ハ亡ニ従フモノナシ、即チ(てん書体の)

無ハ豊ニシテ亡トスル

 
と、いうのだからよけいわからなくなって

まあ、結局のところ

ゴチャゴチャ複雑でありすぎるからかえって無いのだ、と

思うことにしたが
 
それにしても

無とは豊かにして亡びの意味であるとは

禅問答にも似て面白い解説ではある

 
僕はてん書体以前の古文ないしは鐘鼎金石文字の

十三にも及ぶ様々な 「無」 のなかから適当な一体を選び

トンチンカンにも隷書体の筆法でおれを書して額装し

玄関の正面にデンと飾ってから久しい