一九六0年一月四日午後
ルールマフランからパリへの車での帰途中
自家用車の助手席でのアルベーユ・カミユは
なお不条理について際限のない思索を続けていた
猛スピードでのカーブにさしかかって
ハンドルを切りそこねたのか切りそこわなかったのか
車はプラタナスの大樹に激突
「暴露屋は消す」 と、どこからともなく野太い声がして
しまった、と感ずる一瞬もなく
まんまと完全犯罪は履行され殺人は完遂された
秀才で短気なニッポンの三島由紀夫は
モノの見事に己の腹をカッさばいて
不条理の世界を身をもって示そうと企てたが
浅慮にすぎた、口惜し
不慮の死も不条理 自殺も不条理
永遠の生命むろんなけれど
いかんともせんかたなし