プレリュード・序 詩 | 第 1 章 | 第 2 章 | 第 3 章 | 第 4 章 | 第 5 章 | 第 6 章 | 第 7 章
第 8 章 |  第 9 章 | 第 10 章 | 
第 11 章 | 第 12 章 | 終  章 | BACK TO TOP

次 へ

第12章 光と影 (2)

不条理についての一考察
 


一九六0年一月四日午後

ルールマフランからパリへの車での帰途中

自家用車の助手席でのアルベーユ・カミユは

なお不条理について際限のない思索を続けていた

 
猛スピードでのカーブにさしかかって

ハンドルを切りそこねたのか切りそこわなかったのか

車はプラタナスの大樹に激突

 
「暴露屋は消す」 と、どこからともなく野太い声がして

しまった、と感ずる一瞬もなく

まんまと完全犯罪は履行され殺人は完遂された

 
秀才で短気なニッポンの三島由紀夫は

モノの見事に己の腹をカッさばいて

不条理の世界を身をもって示そうと企てたが

浅慮にすぎた、口惜し

 
不慮の死も不条理 自殺も不条理

永遠の生命むろんなけれど

いかんともせんかたなし