フィリス ホーゲ詩集 愛と祈りの彼方  (2)
横川 秀夫訳

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光悦 ・ 月と兎


ある三月の夜、寒月
その月の石臼のなかに
兎が生命の万能薬(くすり)を挽く
けれど春はあまりにさわやかにすぎ、兎は
クローバーの香る野原に飛び降りた。

何ヶ月ものその間、月は来てはまた去った。
金。いま月は満ちわたり、
古来からの伝説にあふれ、経巡るにおもたく。
今、いままでに。
月は地球に一番近く。

兎はためらいそして歩く。
小刻みにふるえ佇みその野原から
低い月を振りかえる。兎がもそもそ食べる
月光色のクローバーはそのやわらかな毛皮にとって
春の草のように若く ― まったくに若く。

兎を取り巻くすべてのものは
そんなにも若く、石臼と杵は
すぐにでも帰らなければならなかったのにと真近に懸かり。
薬は底をついていて。
今夜、兎は月の中に跳び帰る。

 

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