晩夏の払暁
朝の空気のゆらめきのなかでベッドの際の
カーテンは内側に押され、軽い沙羅の眠りにまどろみながら
先だっての夜にかれがいったことがらについて
さまざまな思いが彼女の胸に浮かぶ
ノース・ダコタ…・・巨大な風が奔放に大草原の上を
駆けめぐり、むきだしの鉱脈、あばら家の町、
あの戦争前の年月の
かれが家族と住んだタール紙の丸太小屋
クリスマス・イヴ…・・雪の降り積もった教会への
八マイルの道を鉱山会社の車に揺られながら、
刃(ヤイバ)の冬の月の下、かれはしあわせに震えた。
聖書と讃美歌のあと子供たちはそれぞれ
キャンデー入りのバッグを手渡され家路についた。
彼は車から叫びながら飛び降り、凍てる寒気と静けさと
夜の中に飛びはね、門の扉のかんぬきを外し
屋外トイレ、揚水機、かがんでいる牛たちの傍らを駆け抜け、
緑の枝々いっぱいに白いろうそくで輝く
暗い戸外に向かって
バタンと勢いよくドアを一杯に開ける。炎を反射する
小さな金属皿。みっともない。輝くツリーは
暗がりの上に、床に、窓に、食卓と椅子にと
いっぱいに光を放ち ― 粗末な部屋の中の
ゆがんだ美しさのなんという恥ずかしさ。
彼女はかれの子供のころの日々を今にして識る。
「ねえ、君」かれは目覚め、彼女の指にキッスをしながら、「泣いているの?」
「過去。
ぼくは過去をあわれむんだ。君は貧乏で、クリスマスの
贈り物もなく。そんな子供のころを余儀なくされて。ぼくたちが
離れて生きてきた年月。ぼくたちの生。そしてあの一本のツリー」
「そして過去の一時一時が今日のこの日、この場所、この朝の風、この光は
― たがいに ― ぼくらをこうさせて
この暁方はそれが触れるものすべてを変えるくれているんだ」
BACK
NEXT