フィリス ホーゲ詩集 愛と祈りの彼方  (23)
横川 秀夫訳

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ナウシカ


とにかく私はここでなにを探しているのかしら?
なぜに私はいつもの庭に面した
あの長い窓ガラスから離れてはいられないのかしら?
なんども私はあの窓と階段のところへ歩き上ってじっとみつめ。
どっしりとした中庭は雨のなにかたむき、色づいていて。

ヒヤシンスは冬のあいだに黒ずんだ柱のあるところに密生し
きらきら光る垣根をくくる黄スイセンの
華麗さのなかにそよぎ
しぶきをたてるレンギョウのまえの樺の樹皮は銀色になり。
若々しさへの呼び名はなんというの、ナウシカ?

ナウシカ。そしてリンゴの木は
炎えあがる隣家の後方にこんなふうにしてあらわれ。
私のものではなく、私のためにではなく。
濡れたねずみ色に映る緑の境界のかなたに
したたりおちる花びら、美しく砕ける葉。

ああ、私のこころは口ごもり! もどってくる
真珠の雨、そして私たちは庭のなかでたがいに向きあい
私たちのいのちの息ぬきを
ほんの軽く息づいて。内気で。まったくに若木みたいに。華美で。
私たちはまたたく間に抑えられ壊れさてしまう

自分自身の失われた青春のなかに立ち。ナウシカ。
私は旅し。私は見つづけ。私はなにも持ってはいない。
これはすべて遠い昔のできごと。

 

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