フィリス ホーゲ詩集 愛と祈りの彼方  (41)
横川 秀夫訳

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青鯨の頭蓋骨


さて此処、ニュー・ベッドフォード博物館において
巨大な青鯨の剥き出しの骨格がゆっくりと複製されようとしています

弓形になってこの部屋の全長を占める長い肋骨は
対になり関節部分で接合され、計算されたこの床に横たえられて
置かれます、一方、見事な頭骸骨は近くの収納所に
収容されます。頭蓋骨の後方への傾きに相応する湾曲部分は
日本刀や海鳥の翼にも似ており、
あるいは狩猟用に引かれる弓にも似ますが、いちばん翼に似たものであります。

この鯨の遺骨は、訪れる人とてない
ノバスコチアの沖合いの何トンもの氷の海の下深く突進し、
あるいはオアフの半透明な波を潜り独り遊泳するという、
その神秘性と豪勇ぶりを語るに足る、
驚くべき骨格を暗示しています。神そのものたる
広大な海の下に潜ることは霊魂のみのよく為し得るところであります

触れてみたいという衝動に駆られましたら、私たちはその骨の輪郭に手を触れ
北大西洋の藻屑の中で海水が私たちを隔てている
その骨格の割れ目に指を触れ窪みの形態を観測することも許されています ―
私たちの触れる指は恋人同志のそれよりも親密で、けれど鯨にはわかりません。
鯨は目にみえる海面の下を滑るように進み
切り立った水中の断崖近くを静かに回遊し、餌を求め
八方塞がりの全くの暗黒の中で
荘重で不可思議な歌を歌い、そしてまた水面に現われるのです。

 

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