フィリス ホーゲ詩集 愛と祈りの彼方  (42)
横川 秀夫訳

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二枚の写真


裸にまで純化されて今日のこの日、過去は
解き放たれました。光は移ろわず輝き続けています。
みぞれは道路とスレートの屋根瓦に透明な上薬をかけ
松の枝々の広がりを通して落ちながら
その葉を氷のような緑色の青磁に変えています。
その日の午後は白黒の、ガラスのような
その世界を内側に秘め、そして
参照事項をも持たず、いぶし銀のモノクロムの
古い一枚の写真に凝縮されています。

この古い写真の中で
来る年も来る年も、毎々日の朝ごとに
ビーバーテイル無線標識近くの
海岸の泥板岩の海沿いの明るく輝く時間の中に記録され
カメラに向かい微笑みながら貴方は立ち続けています。単調な影は
貴方の顔とその若い体を照らしているけど、
貴方が持っている生命のモノクロムをその目の中に読み取ることは
誰にもできはしない、それは貴方の眼鏡の奥に隠されてしまっているから。

過去は遍在し未来はそれと認識され得ず
写真となって存在します。シャッターを押した私は
レンズを通して生き生きとした私が望むイメージを
それと気付かずに見ることができました。
それはフイルムの中に隠れて横たわり、その亡失の中に
とらえられ、たくわえられ、みちたりていて、私がそうだったように、
時間が否定を証明するまで、銀白色に、固定され、
認識される過去から透明の中にこぼれおち、そしてこの日がきました
光が変らぬ限り私たちはその場所に立ち続けます。

 

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