フィリス ホーゲ詩集 愛と祈りの彼方  (45)
横川 秀夫訳

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鹿は逃げる
日本でのワイアット

(i)

さしだすパンの耳と
手のなかのパンを食べようと
かわいい頭をまじかに突き出し膝を曲げておじぎする
奈良の鹿にやさしく微笑みかける
と、おじけてなのか、おとなしくみえるそのままの
自然のまま、鹿はさっと後ずさり

寺院や市街ビルの近くに開かれた公園の
鹿の放し飼いのこのなだらかな丘の上では
誰も鹿に害をなさない。
けれどその鹿の優雅さにかなわなければ
素早くって触れることはできはしない。

(ii)

私は鹿への優しい言葉を知っている、だけどそれは私の言葉ではない
そしてその言葉を通してその鹿の用心深いまなざしのなかにみえるのは
おそらくは、かってワイアットという女性が愛した永遠性。

 

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