
高村 光太郎 特集
レモン哀歌
冬が来た クロツグミ
道 程 刃物を研ぐ人
あどけない話
根付の国 女医になった少女
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黙って刃物を研いでゐる。
もう日が傾くのにまだ研いでゐる。
裏刃とおもてをぴったり押して
研水(とみず)をかへては又研いでゐる。
何をいったい作るつもりか、
そんなことさへ知らないやうに、
一瞬の気を眉間(みけん)にあつめて
葉のかげで刃物を研ぐ人。
この人の袖は次第にやぶれ、
この人の口ひげは白くなる。
憤りか必至か無心か、
この人はただ途方もなく
無限級数を追ってゐる。
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