東西南北雑記帳
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詩の翻訳技術あれこれ
詩の技法における二つの方向

  今月の Poetry Plaza トップページ Poem of This Month を飾っていますのは Jeanne Shannon の 「夜」 という西欧詩においてはある意味で稀なスタイルでの短詩であります。眼の肥えたこのサイト常連の読者であって下されば既にお気づきのように、この短詩は 「ニュー・メキシコ州ジームズ・スプリングズ」 の一部でありその最終連を構成するものです。今回これを敢えて独立した作品としてトップを飾るについては、彼女に電話を入れてその了解を得た次第です。それで今回はこの件に関して、詩の技法につき二つの方向について記してみたいと思います。その前に原文と私の翻訳文とを次に対比させておきますが、そうする理由は原文自体が 中学・高校生の英語力で十分に理解でき、わざわざ翻訳者の仲介を必要としないほど非常に平易な英文であり、そして近代的な素晴らしい言語リズムをもった詩となっている と考えるからです。

shadowy water
water
watersound

all
night long
the lulling
river

うつろな水

水のおと

ひと晩
じゅう
おだやかな

  電話で話さなければならなかったこの件で私が考えましたのは、詩の技法について常日頃から私に付いて回っている問題をかかえているからでした。それで、この件に関するジーンとの話は、簡単でした。「ジーン、元気?」 「ええ、有難う、元気よ。そちらは?」 「うん、元気。それでメールでの件だけど・・・・」 「ああ、それは貴方にお任せ、全文でもどちらでも」 「うん判った・・・」 と言ったところで、あとは月並みな雑談。(ご参考までに私の場合、重要な案件はメールで説明しておいてから電話の肉声で確認することにしています。また多くの場合いきなりの電話で 。) それでは、本題に移行します。

  詩の技法における二つの方向と私が言いますのは、仮に直裁性と修辞性とでもカテゴリー化され得るものです。私が此処で言う 「直裁性」 とは手練手管が要求されない表現方法で、いわゆる叙情と密接に繋がっている表現方法です。寂しいとか悲しいといった直裁的な心情の吐露で、ある意味では作者の感情を ストレートに読者に運んでくれます。「修辞性」 とは形而上的な表現方法で複雑な思想を運搬することのできる表現方法と言えます。詩における方法論では両者とも非常に難しく、そのバランスを取ることだけで作品の評価に大きな影響を与えます。上記の対訳を敢えて記しましたのは、このシャノン作品のなかに私は根源的な言語の呼吸 と直裁性との見事なバランスを見るからです。換言すれば、知・情・意の三者一体となった叙情を私はこの短詩のなかに見ます。

  私は3月1日付の 「このサイトのメンバーの近況など」 のなかで Phyllis Hoge Thompson と Jeanne Shannon そして私自身の三者間の死生観の相違について触れましたが、現在私の手のなかにあるフィリスさんの32篇にのぼる未発表の連作による近作詩の多くは短詩によって構成されております。現在の段階では、折々につけ私に送られてきているそれらの詩にザッと眼を通しているだけなのですが、それらのなかに私は Jeanne Shannon との際立った対比を見ています。その対比とは技法的にジーン・シャノンの直裁性とフィリス・ホーゲの修辞性という二者の相違です。この評論を書くに当って決めたことなのですが、次回からの Phyllis Hoge Thompson の近作詩 「可能性への仄かな光」 のなかではこれらフィリス詩の近作短詩の翻訳の紹介をして行きたいと考えています。

  それにしても、過去5年間のサイト運営の経験から明確に私が此処で断言できることは、このサイトの読者は非常にレベルの高い方々である、と言うことです。文字通り玉石混交のインターネットの無数のホームページのなかで本当にようこそいらして下さいました。それと、敢えて此処で付け加えさせて頂きますが、私たち Poetry Plaza のメンバーは国境を超え個人的に良きにつけ悪しきにつけ、それぞれの詩作品を通じて根源的に非常に深い部分で理解しあっている、という実感です。詩芸術を通じてのみ得られる所産であろうと思われます。如何でか読者との結びつきに於いておや、とも考えられます。これからもどうぞ宜しくお願い申し上げる次第です。

  上記を書きましたのは、5月の連休の一日でした。書き終わって暫くしてからメンバー間で、かねてより懸案となっておりました中国語版増設についてのコンセンサスが急遽成立し、私の無二の親友であります魏剛氏を中国語への翻訳者として正式にお願いをし、この構想が確実な第一歩を踏み出しました。上記 「夜」 の中国語訳もトップに同時掲載されておりますが、事の経緯につきましては、このコラムで後ほど記してみたいと思います。

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