フレダ宮殿の払暁


 
ムエッゼンのアッラー ウ アクバルは
 
静かなゼマレクの夜を
 
刺し貫いている。
 
島の平和は打ち破られ
 
その泣き声はナイルを渡って木霊し
 
街のモスクを覆い
 
アル アザハルの砦に達している。
 
マアデイの地下鉄から遠く伝わる哀訴の声は
 
冷たい川の大気に風穴をあけ
 
早朝、近隣の家のスプーンを
 
ガタつかせ
 
彼は唾をはく。
 
 
   瑪瑙のナイルは瑠璃に変り
 
   やがてツトのアンク アムンの王冠のような
 
   トルコ石へと移行する。
 
 
      その方向の
 
      ルクソールの方を見やれば
 
      ギザのセフレンやチェオプスの石柱のように
 
      ヒルトンやテレビ塔
 
      ナイル川のピラミッドは
 
      霧の中にぼんやりと抜きみいで
 
      アブ エル エラ橋の下では雀の群々が
 
      アレクサンドリアの方向へと羽ばたいている。
 
 
         遠いラッパはやがて強まり
 
        一千万のカイロの市民たちは
 
         エジプトの灰褐色の中で
 
         また一日中押し合いへしあいするための
 
         準備をしだした。

 

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