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第4章 記憶 (6)

回 顧


1974年の初夏、弱冠32歳

私はあるプラント建設のプロジェクトで

フィリピンへ飛んだ


   <滞在期間はたった3日の
     おしのびの緊急ビジネス>


一人の男と
マニラの高級レストランで食事を共にした


   <真っ白いストッキングと制服のスペイン系の凄い美人の
     ウエイトレスの姿が

     まだ私の記憶の中にいきづいている>


話を聞きながら

  ー なんだって
    この男がそんな大物かな、

    私はそう思った


俺がマルコスと話をつけ握手をしなければ
この国はメチャクチャになってしまう

俺はそう考えたものだから、事実そうだったが

マラカニアンに単身出向いた

宮殿に入ると

何百丁もの銃口が俺の心臓にむけられていて

俺が歩を進めるとそれにつれて

銃口も同じく動くのもわかった

撃て、というマルコスの手がいつおろされるか

歩を進めながら、こわかったな、たしかに

だけど

そんなものではなかった


武勇伝でもなんでもなく淡々と語られるその話に
私は耳をかたむけていただけであったが
 

(サファリ・ルックの開襟シャツに親しむ今頃になって 
  回教徒の王であると紹介されたことをも思いおこし
 
  なるほどそうだったのだろう
 
  明確に思いあたる)
 

開襟シャツのさばけたスタイルの
彫の深い顔つきの60代の

がっしりとした大男だった