1974年の初夏、弱冠32歳
私はあるプラント建設のプロジェクトで
フィリピンへ飛んだ
<滞在期間はたった3日の
おしのびの緊急ビジネス>
一人の男と
マニラの高級レストランで食事を共にした
<真っ白いストッキングと制服のスペイン系の凄い美人の
ウエイトレスの姿が
まだ私の記憶の中にいきづいている>
話を聞きながら
ー なんだって
この男がそんな大物かな、
私はそう思った
俺がマルコスと話をつけ握手をしなければ
この国はメチャクチャになってしまう
俺はそう考えたものだから、事実そうだったが
マラカニアンに単身出向いた
宮殿に入ると
何百丁もの銃口が俺の心臓にむけられていて
俺が歩を進めるとそれにつれて
銃口も同じく動くのもわかった
撃て、というマルコスの手がいつおろされるか
歩を進めながら、こわかったな、たしかに
だけど
そんなものではなかった
武勇伝でもなんでもなく淡々と語られるその話に
私は耳をかたむけていただけであったが
(サファリ・ルックの開襟シャツに親しむ今頃になって
回教徒の王であると紹介されたことをも思いおこし
なるほどそうだったのだろう
明確に思いあたる)
開襟シャツのさばけたスタイルの
彫の深い顔つきの60代の
がっしりとした大男だった