第10章 東と西 (13)
ヴェネツィアの夕映え
池田信一画 油彩テンペラ変形三号
どこをどう廻ってそうなったのか
中国何千年の文字の始源のなかで
無という文字は
豊かにして亡びの意を踏まえた愛の表象であるとは
洋の東西を問わず
歴史を貫く人知の達見
画面の此岸の基底に玄を置き
湾をへだてた対岸の
聖マルコドウジェの厳たる黒
帆柱と塔とは
垂直に
天極を指し
オレンジ色に染まった海と空とは
亡びを飾るにふさわしく
それはまた遠い何時の日か
新たなる未知の始源へとつながりもしようが
亡びがかくも美しく
装われようとは