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第12章 光と影 (3)

ひとり物思い
 


憂愁をうたうには時代はどうでもよいほどに明るすぎ

嘆きをつづるにも自分にはあまりになにもなさすぎる
 
なぜに詩を作るのかとぼんやりと考え
 
留まってうづくまり
 
うづくまりながらなお考える

 
ひとはひとでありじぶんはじぶんであると

ならばどうしたどうなのだと

再び自分自身に問いかけてみても

むろん、答などなく

どうでもよいこんなことを書きちらしながら

息ぬきににがいコーヒーをすする

 
いったいに生きるとはなんのことであるのか

なんの騒ぎであるのかとふとまた考え

生きるとは簡単な算術であり

それぞれに解答は既にでていてことさらに考える必要はなく

その算術式はきわめて簡単明瞭にして

自分自身のなかにも長いあいだ思いもかけず堂々として

既に巣くってしまっている

奇妙で変な乖離を帯びたその一般式に気づく

 
履いた足袋の上から足裏を掻くにも似た

曖昧模糊のナンセンスの積みかさなりのなか

すべてが虚数であり無意味な記号であると

怒ったり悲しんだりのそれもまた面倒に思え

みんなそれぞれ御身大事のその時その時のそれで十分と

せんもなくやるかたのない呪詛にも似た思いなど押し殺し

無益にしてどうでもよいことなど

それぞれ勝手にどうとでもしてくれと

いささかすべてが面倒にもなり居直ってみる

 
けれどもほんとうにそれでいいのかともまた考え

なんとなく心うすら寒い気分になりもして

なにかをしなければとの思いにも駆られ

間の抜けてなんたるのドン・キホーテであることか

ご気楽にして古い昔からの忍術使いどもを皆殺しにし

元凶を根元からぶった切り、絶ち

きれいな空と環境とをとりもどしたその上で

チリチリ細く尖り脅え震える善良にして迷信深い弱者を救え、と

煙草なぞいう気付けの毒物を飲みながら

決りきった算術世界の上下左右整然としてビッシリつまった

虚数の安直表という見事なまでになんにもない中に

それでもなにかしら実数でも見つけだしたいのか

愛用のワード・プロセッサーに向かい

今日も終日こうして文章に戯れているのだ