フィリス ホーゲ詩集 愛と祈りの彼方  (29)
横川 秀夫訳

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氷の花


霧のほのかな光は
あたたかな山の背後をぼんやりとさせ、そして霧は
爽やかな風にのって海辺の方にとけながら
緑のうねりからスプレーのように吹き消えていく。
私には信じられない。
私は寒気を期待していた ―
氷の包葉をまとった雪の花々。

私たちはブーツを履いて湾の岸壁に立っていた。
砂をなめる冷たい海水は静まっていた。
雪片は凍てつく大気のなかに踊り、
茨の木々を被い、艶のある薔薇の実から滑り落ちた。
氷の中に立ち尽くし、私たちは互いにくっつきあい、
あなたの唇は赤く、あなたの息は温かく、あなたの顔は濡れ、
私たちはそこに立ち続けた。

凍った時間。

救うにあたいしない世界に
私たちは離れて生き。
年々、時は進み。
霧や海の靄のように私たちは年月のなかに消えていく。
花をつけず冬を耐えるどんな真紅の花々も
湧き起こる寒気を飾ることはない。

 

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