ゴータマは粗末なくすんだ色のカシャーヤの衣に着替えて坐し、チャンナにその髪を剃らせてから言った。
「宮殿に帰ってヤショーダラに仕えカンタ カの世話をせよ。」
涙をうかべながらチャンナはその言葉に従った。
踵(かかと)重たくゴータマは一人、深い森のなかへと入って行った。森の奥深く、で結坐を組もうとしたとき、
ゴータマはヤショーダラの
姿を自分の体内に見た。ヤショーダラは清らかに微笑み、その姿は消えていった。
ゴータマは結坐し、静かな瞑想に入っていった。
ゴータマにとって、生とは生とは生であった。生まれいずることは大自然の生理現象の
一つであった。が、老いることあるいは老いていないこと、病むことあるいは病んでいないこと、そして死ぬことまたは死んでいないこと、についてゴータマの思索は続けられていた。万巻の書物もこれに
能く答えているものはなかった。
幾人もの著名な仙人を訪れ教えを乞うた。ある者は無所・有所の境地について論じ、ある者は非想・否非想の境地について論じ、またある者は無所有について論じた。論ぜられたどの境地もゴータマを得心させてくれるものはなかった。
托鉢によって得た一日に一椀の糧を食し、深い森のなかで一人瞑想にふけ
る作業は続けられ識の止滅である禅定を得た。が、その境地もゴータマを満足させ得なかった。この上の境地がある、とゴータマには思われた。
ゴータマの思索は実践へと移行して行った。古来から伝わる恐怖・嫌悪・孤独・止息・
不眠片足立ち・茨の床・断食をも含めあらゆる行を極限にまで試みた。
が、その精神の裡に何も変わることはなかった。
極度に衰弱したゴータマはネーランジャ川で沐浴を終え岸にあがり樹木の下に腰をおろした。意識は急速に遠のいて行った。
富豪の十人姉妹の末娘の少女スジャータはは川岸のピッパルの木の下に.枯木が横たわっているのを見た。良く見るとそれは
枯木ではなく骨と皮だけの
ゴータマであった。スジャータは従僕を呼び家に運び乳粥をその口に含ませた。ゴータマは蘇生した。
第6章 ゴータマ・ブッダ
やがてゴータマはウルヴェーダへと移動した。ネーランジャパジャータ川のほとり、アシヴァッタの木の傘蓋の下に結坐し、七日間の瞑想に入った。識の止滅と絶対的な静謐のもと、法悦も啓示もなかった。七日後、ゴータマは究極の解脱を得たことを自覚した。それは心身と智恵からの完全な
解放であった。
ゴータマはその境地を説明するに言葉を持たなかった。
やがて
ゴータマは歩きだした。
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