東西南北雑記帳
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詩の翻訳技術あれこれ
言語リズムと行替え
ここのところかなりの時間をかけて、このサイトのレイアウトとデザインにつき総合的な見直しをしてきましたが今般、日本語サイトの文字の大きさを従来の10ポイントから12ポイントに切り替えました。これで見直しはほぼ完了したといったところです。この作業過程のなかで、メンバーそれぞれの作品を
逐一ぜんぶ読みかえすことになりましたが、各メンバーの作品群の独立性というものを強く感じ、また 「詩は一人一派」
であるということを再認識した次第です。それで、たまたま Jeanne Shannon
のページ改訂が最後の作業となり、再度じっくりとその作品を読みながら 「ジーン シャノンを読みかえす」
という詩ができてきましたので、今月の新私小説日記のページに発表しました。昨晩、作ってからすぐにこれを英訳し彼女にメールで送っておきましたが、この英訳の過程で、言葉が本来持っているそのリズムについて非常に考えるところがありましたので、今回はそのことについて記してみたいと思います。
この詩は日本語では全部で17行ですが、英語に置き換えられたものはこのコラムの脚注に参考までに記しますとおり12行となっています。この思い切った行替
えの変更はどこから来ているかと言いますと、端的にいってそれは言葉のリズムの相違から来ています。散文と違って韻文には
、味読に値する表記法として、行替えにはそれなりの理由があります。一つには、文字からの視覚的効果の要求するところからであり、一つには、言葉のリズム性とそれぞれの言葉の強調といったことが上げられましょう。もっとも、現代詩においては、言葉の呼吸.(リズム性).から完全に遊離してしまった奇妙な行替えも見られないわけではありませんが、これはスタイルの斬新性をてらうがあまり詩の外観に拘泥しすぎた結果で日本語詩においてはなんら普遍たり得ないであろう、と私は考えています。
行替えにおけるこうした原文と翻訳文の著しい相違はこの場合、作者と翻訳者が同一ですから誰にもクレームのつけようのないところでしょうが、読者と原作者
との間にたつ仲介者たる翻訳者には許されないことは当然のことです。ただ、作者
である私自身がそれを自分の英語に置きかえた場合に、これが一番に適切である、と思えるものですから形式にこだわらず正直に訳出した結果です。言語とその呼吸法とは絶えず密着しあっていて、自分自身のなかから生れてきたものの日本語と英語とをあらためて客観的に対比
したとき、これで良いと思われたものですから仕方がありません。行替えにおけるこの乖離性ともいえる現象は、その現象自体、私にとっても奇妙に感じられないわけではありません。
そして、私自身は作者にして翻訳者であるのか 、或いは作者にして作者であるのか、なんとなく奇妙な気がします。
それにしても、一体に口語自由律による現代詩それ自身にはまるで定型性がなく、野放図に自由であります。従って現代詩の翻訳にも、これといって際立った定式的な方法論はないのではないでしょうか。詩の翻訳はまるで道なきジャングルのなかを手探りで進んで行くようなものかも知れません。こうした理解に立って、現代詩の翻訳を考えるときの一つの重要なキーは、言語そのものに内在するリズム.(=
言語の呼吸).とそれにまつわる行替えにある、と私には考えられます。 たまたま上記の.「ジーン
シャノンを読みかえす」.を典型的なケースとして例示しましたが、直訳的に原文の改行に合致させて日本語での倒置法を平気で多用するなど、言語の呼吸に注意を払わない詩の翻訳がかなりにまかりとおっていることは間違いのないところであると私には思われます。
コンピューターを中心として科学技術分野での専門化された特殊な日本語の翻訳が大量に費消されているなか、ポイントは、日本語の呼吸をもった噛み砕かれた言葉での翻訳が
どんな分野においても必要とされている
、ということになると思います。母語は大切なものであり母語のなかに存在する生の根源的な言語リズムを欠いたことばは論理それ自体をも破壊しかねない不毛の記号と化してしまうはずです。また一方、情緒におぼれきってしまった言葉にも大きな危険が潜んでいることを此処で同時に指摘しておかなければなりません。
言語とは実に面白い、つくづくそう思いながら、ここでこの一文を終了します。
(2005/04/20)
参 考
Rereading Jeanne Shannon
Without thinking too much unnecessarily,
getting relaxed, with an open mind, feeling at ease,
how come I am enjoying poems like this?
Technique unrevealing intentional techniques.
Deep intelligence lying behind.
Vivid heart clarified brightly.
Humor from time to time.
True things stated frankly in a casual way,
on the pretext of humor.
Jeanne Shannon's is,
with no grievance,
genuinely wonderful
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