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幽霊だった私たち 
 (The Ghosts of Who We Were)



 

 


 
しめり気のおおい12月のきょうの午後
 手のとどかない場所にはえる、背のたかいシェル・ジンジャーの群々は、
 おだやかにそして祈りのようにしずかに、歩道の上におおいかぶさっている。

 
だけど、かってはここでたがいに平穏にしあわせにとろけあったのに
 あなたと私はたがいに遠くはなれた世界の場所で
 今は離れ離れに生きているものだから

 
私とあなたとは海や陸や国土などよりもはるかに隔てられて
 いるものだから、私たちの精神がみつめる
 私とあなたの中間にあるその場所に、冬があると私は考えるのです。

 
夜がくる。私たちがそうであったようにこうした幽霊たちは
 眠ることがなく、大陸中央部のブリザードの
 強風のなかを耐えてすすみ、西と東という

 
両方向に消えてゆく鉄道がみえる
 つもりつもった吹きだまりの雪のかなたに立つ。
 幽霊たちは木々と同じように凍えていることはたしかなこと。

 
幽霊たちは待つ。と、線路が枕木のうえで鳴りひびきはじめ、
 そして、枕木たちはたくさんの貨車の重量をささえ、
 鐘はそうぞうしく鳴りわたり、濃い雪の薄片をとおして遥か彼方の前方に

 
回転灯はあかるい光線をおくり、幽霊たちは手をにぎりあい、
 大地はふるえ、線路の踏みきりで列車はかなしげな音をたてている。
 幽霊たちは戻ることのできない線路を長いあいだ凝視しつづける。