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最後のもの   (The Last Thing)



 

 


 その指をもう一方の手に触れようとまさぐりながら
 凍てる大気けれども大気そのものの中で
 すりむけた両の手首をきつくうしろ手に縛られたその男にできることは
 最期のそして痛々しいものをその両の手で感じようとすることだ

 
男はおのれの分身である日ごろ慣れ親しんできた身近なものを
 手にしたいと願う、がその硬直した指を結び合わせることはできない。
 ありのままのその状態は男にとって分かちえない苦痛であり、
 潔白であり、伝えるには困難にすぎた。
 
 風は深傷を負った短距離走者のように男の肩のうえに
 ふくらみ、亀裂した血は太ももの皮膚と
 男が多方面からとりまかれた極寒の場をこわばらせ --
 痛みは黄色い傷痕に濃縮される
 
  男の足もとの墓は浅い。それは彼自身の墓だ。
 男は堀り進む。と、突然に男はその中に結合されるだろう。
 やがて、ともがらは最終的には男をそこから救おうとは
  しないだろう。如何なる物も。如何なる人も。
 
 
男は死ぬだろう。死の訪れは遠いことではないはずだ
 男は言うだろう、「サラ」 とも 「主イエスよ」 あるいは
 
わが祖国よ」 とも 「ともがらよ、わが死を祝福せよ」 とも、また
 「わが父よ」 とも。それが何であれ男の言わんとするところは
 
 
男が息づく大地に向かっておのれ自身から投げ出す最期のもの
 であり、そして敵はそれを聞いても理解はしないだろう。
 首への爆撃、背中は、重たく
 膝への打撃、男は倒れ、墓場の方向に向かって
 
 
うちのめされ、「サラ」 とは、男は言わなかった。
 倒れながら、男はその背中で落とし穴をねじり壊す。
 なぜに、その穴を男は壊すか? おのれの頭を石にて殴らせ
 その肩を打たしめなば、死はよりたやすかろう
 
 
おのれ自身が最後のそして野蛮な思潮なのであれば
 この方が良い。あと六分。大地。だが、より困難だ。
 大地は男の背中にどっと落ちかかる
 男はその手でとらえそしてつかむべき
 
 
大地のあたりにその指を閉じる。男は息をしている。
 大地は倒れかかる。男には大地を思い出すことができる  --
 それは新たな種を迎え入れ、また地に残った種に準備された
 平均に耕された土壌。男はその種をもたない。
 
 
小麦。干し草。納屋。あの、まだら牛。
 その牛のあたたかな乳房から絞り出されたミルク。味。
 男の口の中の大地。男の最後の息、
 そしてあの宙に舞ういっぱいの土。早く。
 
 
サラ。楡の木々。林檎の花。雨。ぬれた髪。
 まるで手のとどかない、太い枝になる
 林檎への渇望。大地。大地。
 男の体は大地の中で動かなかった。うつろごとではない。大地、緊急の顎、舌、歯。
 噛む大地。脚立。林檎。