東西南北雑記帳
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詩の翻訳技術あれこれ
推敲と詩の原点
詩文に限らず、何を・如何に.表現するかは、およそ文章であれば何時も付いてまわる問題でありましょう。ただ、詩文の場合は.如何.にというポイントがその作品の評価に非常に大きく影響することは.確かなことでしょう。今回はこの点に関して考えてみたいと思います。
詩的イメージというものは、何処からもたらされるのか、不思議なものがあります。私は一時、不思議なイメージにとらわれました。それは、非常に美しい光のかたまりのような靄(もや)のような.一つの形のあるもので、明確に認識できるものでした。それは肉眼でも見えるような気がするのですが、そうではないような気もするものでした。そしてそれは、宙に浮いており漠然とした広がりを持ち、私自身の胸の中にも確かに存在することが.認識できるのでした。無論、私はこれを詩にしようと試みましたが、言葉にはなり得ませんでした。ただ、「ナンダロウ、アレハ、ナニカガアソコデ、ヒカッテヰル」.という、それ以外にそうとしか言えないメモを残し、またその後、これだけで詩と言えるかもしれないとも考え、1996年に出版した詩集 「私小説日記」 の巻末にこれを記録し、更なる詩的熟成を待った次第でした。
このカタカナによる短章が自分の納得の行く詩
「靄(もや)の映え」 として結実したのは.それから数年を経た、2001年ころのことです。出来てからしばらくして.これをこのホームページに載せましたが、今迄、英訳せずにおりました。それは、恋愛詩の形をとって表現されていますが作者としての私の詩的原点は上述のイメージにありますので、恋愛詩のスタイルに惑わされて日本語でも本当のところを分ってもらえるかどうか、とそのとき疑問に思った事に起因しています。今回、このホームページの全体的なデザインとレイアウトの改定に伴い、心機一転、これを英訳し
"Glow of the
Mist" として英語サイトに掲載しました。
この翻訳には上記の事情もあり、非常に気を使いました。それぞれの英単語の意味の的確性をも含め、ことばの音感をまで緻密に計算し幾度も推敲し、折々に2週間もの時間がかかりました。情感の伝達という面もさることながら、「何を」 という意味の伝達に相当のエネルギーを費やした気がします。その結果、日本語原文の中にある 「その静謐のなかにある」 を訳出せず、また、言外にあるものを補足的に説明することば "at the same time" の成句を.翻訳文のなかに盛り込まざるを得ませんでした。以前に、Cid
Corman 訳の芭蕉の 「キツツキ」 の俳句について触れましたが、結果として、あれと似た状況が現出しています。
つまり、英訳された翻訳文が再度他の翻訳家の手によって日本語に翻訳されて、それが逆輸入された場合、明らかに原文と違った.追加的な言葉が盛り込まれていて、また説明的な一節が失われている、という結果になっています。
こうした事は、翻訳家にとって絶対に許されることではありませんが、自作詩の作者自身による翻訳の場合にのみ許され得る、自由な精神の羽ばたき、とでも言える醍醐味を.結果として満喫した次第です。
詩には元来、簡潔性が要求されますが、母語の場合、ことば自体が自分の血肉となっておりますので、そのリズム性とか音楽性の要求するところから、意外に無駄な言葉が無理なく使われていることに気付くのは、翻訳の課程でしばしば経験するところです。この事は、自作詩の場合に限らず、他者の作品を翻訳する際にも、まったくに同じ事が言えるようです。それにしても、「何を・如何に」 という問題は、そのジャンルを問わず、翻訳家にはいつも付いて回る.根源的で因果な問題であることを、再々度にわたり認識せざるを得ない次第です。
蛇足になりますが、前回より縦書きの詩を所々に採用し、Poetry
Plaza のトップペ−ジは.メンバーの代表的な作品で飾り、一方、日本語サイトのトップページは.リトアニア詩の中から選出し、私が良いと思う作品で飾る事になりました。今回は、ジョナス・アイスチスの 「アンダンテ」 を採用しましたが、これは初掲の翻訳文を更に推敲し校訂したものを掲載しました。ところが確かに短詩はむつかしく、今に至っても、最終行の 「夜どおし続く」 を更に推敲して
「夜なが夜どおし」 にしたい衝動に駆られています。推敲という作業には切りがないようです。
追記: 上記を脱稿いたしましたのは12月15日でしたが、結局、本日21日、最終行は 「夜なが夜どおし」 に変更して一区切り、ということになりました。また付け加えるに、「ヒバリの水晶、天蓋にふるえ」 の表現は、ヒバリの鳴声と飛ぶその姿が 「水晶」 という言葉にこめられていて素晴らしい、とつくづく感じています。蛇足の蛇足になってしまいましたが、ここで筆を置きます。
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