
萩原 朔太郎 特集
旅 上 竹 白い月 晩
秋 自然の背後に隠れて居る 蛙の死 馬車の中で
BACK TO INDEX
次のペ^ジへ
はげしいむし歯のいたみから、
ふくれあがった頬つぺたをかかへながら、
わたしは棗(なつめ)の木の下を掘ってゐた、
なにかの草の種を蒔かうとして、
きやしやの指を泥だらけにしながら、
つめたい地べたを掘つくりかえした、
ああ、わたしはそれをおぼえてゐる、
うすらさむい日のくれがたに、
まあたらしい穴の下で、
ちろ、ちろ、とみみずがうごいてゐた。
そのとき低い建物のうしろから、
まつしろい女の耳を、
つるつるとなでるやうに月があがつた、
月があがった。
|
 |
|