萩原 朔太郎 特集
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馬車の中で  

高見 優子 朗読


 


 馬車の中で
 私はすやすやと眠ってしまつた。
 きれいな婦人よ
 私をゆり起してくださるな
 明るい街燈の巷(ちまた)をはしり
 すずしい緑陰の田舎をすぎ
 いつしか海の匂ひも行手にちかくそよいでゐる。
 ああ、蹄(ひずめ)の音もかつかつとして
 私はうつつにうつつを追ふ
 きれいな婦人よ
 旅館の花ざかりなる軒にくるまで
 私をゆり起してくださるな。