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マヤの伝説
ママルーナ  OCT/2017
(1)
?今から二万年前。洪積世のウイスコンシン氷河期 。 ユ  −ラシア大陸に住む多くの部族は北東に移動し、ベーリ ング陸橋を通って波状的にアメリカ大陸へと渡った。

新大陸での彼らは何千年もの歳月を費やし 南下をし続 け、小部族ごとに南北アメリカ大陸の各地に散在し定 住して行った。それら部族のうち、マヤ族はメソアメリカのコパンの地を中心に定着した。 ?

七番目の花の日。天蓋をを渡る太陽と月がその軌道を 完全に同一とする日の新月の深い夜、天文学者ヤシ ュクックを父にその妻マルガリータを母に九番目の娘 としてママル−ナは生れた。 それは 太陽と月とが新 しく生まれ変わる日であった。夜が明け太陽が上らなければ 世界が 終焉するはずであった。

人々は恐れと希望との混沌のなか、丘の上につどった。 やがて、「見よ」 深い鮮紅色の金星を指差しながら ヤシュクックが叫んだ。無数の黄金の矢が放射し始め天蓋に満ちた。

真昼の天体のドラマは更に展開し、正午、太陽は金の環 のなかに隠れ、やがて再び生れ変り、その新たな姿を現した。人々は溢れるばかりの厳かな新しい陽光のな かにひざまづいた。

(2)

揺りかごのなかの幼いころからママルーナはコンゴウインコと 共に育った。このインコはパコと名づけられていた。彼らはいつも一緒で、互いに付かず離れず空気同士のよう な 存在であった。彼らは聞こえない声の領域で話し た。彼らは互いの心と思いを共有していた。

マヤ族にとって太陽は森羅万象の父であり、大地は母で あり、そして地下は母の子宮であった。洞窟は神聖な 場であり、コンゴウインコは地下で暗闇と死と戦う太陽の象徴であった。

マルガリータはママルーナに読み書きを教えた。彼女は やがて宮殿の中央にある広場に建立されている記念碑に刻まれている膨大量の記録を読破し、中でも彼女は 何千年もにわたって集積されている天体観察の記録の虜(とりこ)になって行った。

ヤシュクックは折につけ彼女を天文観測台へと伴い天文 学の基本を教えた。成長した彼女はヤシュクックと肩 をならべるほど天文学に精通するようになっていた。

北斗七星の周辺から降る異常なまでの夥しい数 の流れ星の耀きに天は満ちていた。ママルー ナは目を南方んj転じた。はるか天蓋の南端の奥に目には見えないなにかが金色に耀いているように感じた。それが何であるかという不思議な思いから彼女は心のなかでなにごとかを呟いていた。

ある日彼女はヤシュクックに言った。天蓋には白金に輝くスポットと絶対的に黒いそれとの二つがある、と。そしてまた、天界は立体ではなく何次元もの世界で成り立っている、と。ヤシュクックは笑って相手にはしなかった。

(3)

アイマラ族の青年ナパクスコはチチカカの湖畔で煌く星 々の  下に立っていた。天は南十字星のあたりから降る夥しい数 の流れ星にあふれていた。はるか彼方、天蓋の北の末 端の奥から来るプラチナの純白の声が自分を呼んでいる、とナパクスコには思われた。

ナパクスコは生れ故郷のチチカカを去り北を目指しアンデス の山を下って行った。平地の森林地帯にさしかかったころ、一羽のコンゴウインコに出会った。その鳥は付かず離れ ず後になり先になりナパクスコ共に進んだ。ナパクスコはその鳥をララと名づけた。

彼らはジャングル地帯へと入って行った。ナタで道を切り 開 き進んで行った。北の方角へとナパクスコを導きなが らララの動きは活発化した。

彼の前方を飛翔しながら突然ララが鋭い鳴き声をあげた。一頭のジャガーがナパクスコを待ち伏せし隙を狙っていた。 夥しい数のコンゴウインコがナパクスコとジャガーの間の中空を飛び交いジャガーに向って鋭く威嚇の 叫び声をあびせた。一羽の巨大なコンゴウインコが音も なく背後から滑空しジャガーの腰骨の間の急所をその鋭い 嘴で突き刺した。ジャガーは後ろ足を引きずりながら逃げ 去った。 ?

jジャングルを切り抜けると肥沃な草原であった。ララはナパ クスコの肩にとまり頬づけをしながらプラチナの純白の 地は近いと言葉ではない声で言った。ナパクスコはうなづいた。

(4)

食人種ミード族は密かにコパンの地を包囲し、町は重苦 しい大気に覆われていた。ミード軍の隊長グロッソは 一斉攻撃の右手を高々と挙げた。その瞬間太陽から目には見えない無数の黄金の矢がミードの軍隊の目と 耳と喉に突き刺さり、全軍は倒れ芋虫となった。鳥々が飛来し芋虫を啄ばんだ。町は再び明るいプラチナの光 に満ちた。住人は起ったことについては誰も何も気付 かなかった。パコとララだけがことの事実について知るのみであった。

ナパクスコはララを肩に町中へと歩み入った。道行く人々 はナパクスコとララを包む柔らかな黄金色のオーラを見た。一人の男が神の使いが来たと言った。噂は広がっ た。ここから見えるあの谷間がプラチナの純白の光の 源だとララがナパクスコに言った。ナパクスコとララは その谷の森の中へと入って行った。

ナパクスコは潅木に囲まれた池で沐浴をしている女を見 た。女はプラチナの純白のオーラに包まれていた。マ マルーナであった。ナパクスはこの世のものとは思えない美しさの前にひざまづいた。、パコとララは互いに頬 を交しあった。ナパクスコはチチカカから持ってきた黄 金のネックレスをママルーナに捧げた。ママルーナは ナパクスコの求婚を受けいれた。パコはママルーナの ペンダントの一部を切りとった。それはママルーナの 偉大な祖先の聖なる遺骨であった。ララはそれをナパ クスコの胸の肉のなかに埋めた。 
人々は宮殿の中央広場に集まった。ママルーナとナパクス コが人々の前に現れたとき、二人はプラチナの 純白と黄金の光のなかに煌いていた。煌きは広がり 広場全体を包んだ。厳粛な光のもやのなかで訪れた人々はコカの葉を噛みチチャ酒を飲みながらママルーナ とナパクスコの美しさに酔った。

(5)

星々でいっぱいの夜、ママルーナはナパクスコを彼女だけが知る洞窟へと導いた。場所は二人が初めて出会った池の上方にあった。洞窟は鈍い厳粛な光にみちていた。中央には泉が湧いていた。洞窟の天井は天蓋であった。泉のほとりで二人は隣りあわせて上向きに寝ころびその天蓋を見上げていた。

北斗七星のある同じ場所にナパクスコは南十字星を見ていた。彼女はすぐに彼はチチカカの夜空の下にいることに気付いた。天蓋はコインの裏と表のように二重であることを二人は理解した。二人にとって、距離には何の意味もなかった。
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同じ夜、ヤシュクックは星々の動きを観測していた。彼は天の川のなかにいまだ知られていない寄り添うように光る二つの星を見た。一つは金色に光り、一つはプラチナの純白であった。彼は手燭の光をたよりにこの事実を記念碑の石に刻み込み記録した。彼はかってママルーナが彼に言った天体についての異論を思い出していた。
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夜半、ヤシュクックは家に戻るとマルガリータにこのことを話した。彼女は微笑んだが何も言わなかった。彼女は既にすべてを知っていた。二人は寝室へと赴き深い眠りに落ちて行った。

夜が明けるとコパンの町とその周辺から人はかき消えていた。何が起りそしてまた人々は何処に消えて行ったのか、知る人は今もいない。

ゼウスとヘーラー


この宇宙にカオスが出現する前、世界は乳白色の霧に覆われていた。霧は無限の空間に充満していた。 霧は神々、宇宙、森羅万象そしてまた目には見えない人間の抽象概念をも含み、すべてを内包していた。同時にそれらすべてはそれら自身の形態が全く異なっていたとしてもなお、乳白色の霧自体と同一であった。 乳白色の霧は万物の根元であった。

女神たちの間でのゼウスの評判は良いものではなかった、なぜなら女神たちはゼウスに対して肉欲を感じながらも互いに牽制しあっていたからであった。そんななかで、ヘーラーはゼウスの噂を耳にするたび、眉をひそめるだけで、なにも言わなかった。

ゼウスがヘーラーに近づき手篭めにしようとしたとき、彼女はゼウスの腕の中で身体をねじると、その肘でゼウスのみぞおちをしたたかに突いた。 ゼウスはうずくまった。

ヘーラーは静かにゼウスに言った。
「私を欲しいのであれば、まず最初に貴方はテニスと離婚し子供たちとも別れなければなりません。」
ゼウスはヘーラーの目のなかに無限の母性を見た。その目を見ながらゼウスは言った。
「私は貴女に従うことを誓う」
ヘーラーは厳粛に言った。
「如何なる他の女性とも交わってはなりません。」
ゼウスは言った。
「なんということを、私は貴女だけのもの。なぜにこの私が不実であることができましょうか。それよりも、豪華盛大な結婚式を挙げましょう。」
婚約は成立した。ヘーラーはゼウスの力強い腕のなかに倒れこんだ。

樫の木々の梢は天蓋を掃き清め、黄金色の雨は大気と大地を澄みわたらせ、森羅万象は生き生きと輝いた。大鷲は天空の遙か高く整然と静かにその編隊を展開し警戒の任に当った。

オリンポスの宮殿は正装した男神と、豪勢に競い着飾った女神たちによってあふれた。ライヤの琴の響きと共に小鳥たちはコーラスを歌い、ニンフたちは中空に踊った。

ゼウスとヘーラーがその姿を現す。宮殿はヘーラーの無垢の純白に驚嘆しどよめき、全宇宙はヘーラーの深い輝きに満ちた。女神の中の女神の登場であった。ギリシャの全土でこの婚礼は三百年の間続いた。


結婚して後、ヘーラーは将来の何時の日にかゼウスの決定的な敗北という漠然として重苦しい不安を感じていた。その上、折につけ彼女はゼウスの頻繁な浮気の噂を耳にしていた。ヘーラーはそんな重苦しい胸の内をガイアに打ち明けた。ガイアはヘーラーを慰めたが、これといった具体的な解決策を提示することはできなかった。ガイアは何も言わずに一つのザクロの実をヘーラーに与えた。

宮殿に戻るとヘーラーは、イリスとホーラーに極秘裏、ゼウスの後を付け、目撃した事実について報告するよう命じた。もたらされた数々の報告はヘーラーの嫉妬心と憤りをメラメラと燃え上がらせた。。

ヘーラーはゼウスを宮殿の大広間に呼び寄せゼウスの不実を咎めた。ゼウスは言を左右して彼女の詰問ををはぐらかせた。遂に彼女はセレーネ、ハリスト、ラミア、イーオーなど浮気相手の名前をあげ、逐一彼女たちと如何に淫らでおぞましい行為に及んでいたかについてゼウスを糾弾した。

もはや抗弁もなく、カッとなって我を忘れゼウスはヘーラーの髪を鷲づかみにすると彼女を大広間の天井に吊るした。ヘーラーは簡単にフックを外して下に飛び降り床の上に立った。その瞬間、ゼウスは猛烈な頭痛に襲われた。猛烈な頭痛は百年という長い間続いた。

ある日、ゼウスはヘファイトスに命じ自分の頭蓋骨をマサカリで割らせ、その中を調べさせた。中からは槍と盾とで武装したアテーナが現れた。

ヘーラーはアテーナを自室に呼び寄せた。アテーナはヘーラーの前に片膝をつき右手を左胸の上において座った。ヘーラーはアテーナにアテネ ポリスの統治を命じ、またその手にかってガイアから与えられたザクロの実を渡した。アテーナはザクロの実をアテネの丘の聖なる洞窟の奥深くに安置し、その洞窟の出入り口を厳重に閉じた。

一方、ゼウスは腹心の側近に、ゼウスとヘーラーとは離婚の危機にありゼウスは近々絶世の美女と結婚するであろう、との噂を流布させた。噂は広まった。噂は更に膨らみ、その美女が真紅のドレスを身にまとい宮殿のすぐ前の道を通ると言う。これを聞いたヘーラーは怒りに眉をつりあげ宮殿を飛び出した。ヘーラーは金切り声を発しその美女に飛びかかり真紅のドレスを引き裂いた。ドレスの中から現れたのは土でできた人形であった。

ヘーラーは宮殿に戻った。宮殿にはゼウスが待っていた。二人はまた元の鞘に納まった。

チタノマキアの戦いでクロノスとタイタンの一族を滅ぼしたゼウスは天界を支配する神としての地位を獲得すると共に、新しい秩序と調和とを全宇宙に確立した。神々のなかの神の誕生であった。

然しながら、その後のゼウスに起るであろう事態をいったい誰に予想し得たであろうか。オリンポスの神々と不死の怪物であるギガースとの間には確執が存在していた。結果としてギガントマキアの戦いの勃発であった。

強力な大軍を引きつれてギガースはオリンポスの聖域に侵攻した。オリンポスの地はたちまち危機に瀕した。これに対しゼウスはヘラクレイトスを召喚し、何物をも貫く強力な弓矢を与えた。ヘラクレイトスはその剛力で弓を引き絞り矢を放った。矢はギガースの心臓を貫き、それと同時にゼウスの持つアダマスの鎌が大地を揺るがし大気を裂いて閃いた。即座にギガースの軍隊は壊滅した。戦いはオリンポスの完勝で幕を閉じた。

この戦いの結果、かってクロノスの時代以前は天と地の両方とを支配していたガイアの心のなかにしこりを残した。彼女は我慢をすることができなかった。彼女はとてつもなく巨大で強力な怪物キューポーンを立て、これにオリンポスを徹底破壊することを命じた。骨肉相食む戦いの再度の勃発であった。

キューポーンは大地を切り裂き山々を粉々に砕き天界をも轟音で揺るがしながらオリンポスに迫った。神々は恐怖しギリシャからエジプトへと逃れた。踏みとどまったのはゼウスとヘーラーとアテーナだけであった。

ゼウスとキューポーンの一騎打ちはキューポーンの勝利に終り、ゼウスは一敗地にまみれた。ゼウスは八つ裂きにされコーピリオンの洞窟に閉じ込められた。一方、キューポーンもまた重傷を負い治療のためガイアの元に戻った。

ヘーラーはアテーナとその軍団にゼウスの救出を命じ、ゼウスをヘーラー生誕の地、サモスへと運ばせた。ヘーラーは聖なる泉から流れ出る水でゼウスの身体を清め治療した。 ゼウスは復活した。


重層の黒雲が厚く覆う天蓋の下、森羅万象は不吉な兆しにおののき震えていた。ガイアは極秘裏にヘーラーを自分の宮殿に呼び寄せた。ガイアの部屋は無垢の純白のバラの花々で一杯であった。侍女が緞帳のカーテンを下して辞し出入りの扉をピタリと閉じて去った。

室内は純白のバラから放出される柔かな光と芳香に満ちた。ガイアとヘーラーは互いの心の内を分ちあっていた。ガイアは非常に用心深く遠まわしな言い方で、力それのみでは決して宇宙を支配できない、と話した。ヘーラーはガイアの言うことを正しく理解した。

ゼウスとキューポーンとはその最終的な雌雄を決すべく深く高い天空で再度の対決となった。

アダマスの鎌はひらめき、雷の轟音は天を揺るがし、噴出する炎は走り渦巻き、太陽と月の軌道は支離滅裂に乱れ、天蓋には無数の亀裂が生じ、星星はあらゆる方向に散乱し、全宇宙は崩壊直前の大混乱に陥った。

「モイアー」 というガイアの声をヘーラーは聞いた。ヘーラーは直ちにアテーナを呼びよせた。即刻に重装備をしたアテーナがヘーラーの前に立った。その手にはかってヘーラーから託されたザクロの実が握られていた。アテーナこれをモイアーのもとへと運び自らモイアーの手に渡した。その実はすべての女神たちの英知と平和への願いとが込められた実であった。

実のところ、モイアーは彼女の持つ勝利の果実を与えるようキューポーンから脅迫されていたのであった。彼女はザクロの実を勝利の果実であると偽ってこれをキューポーンに与えた。キューポーンはこれを食べた。キューポーンはたちまちにその怪力を失った。

天空での死闘は一変した。最終的にゼウスはキューポーンをシチリアにまで追い詰め、エトナ火山の下にキューポーンを封印した。ゼウスは全宇宙を崩壊から救うと共に、森羅万象の究極的な秩序と調和とを確立した。世界は再びヘーラーの深い輝きに満ちた。

黄金色の光に輝きながらオリンポスはゼウスの凱旋を迎えた。すべての神々はゼウスを全知全能の神として承認した。

カナートスの聖なる泉で身を清めたヘーラーは自分自身のすべてをゼウスに与えた。ゼウスは ヘーラーの誠実と献身そして貞節、また同じようにその英知と勇気とを深く理解した。乳白色の霧のなかで二人は深い愛のなかへと進み一つとなった。時間も距離も空間も森羅万象もすべてが一つとなり乳白色で一面のカンバスのなかに塗りこめられた。

認識されているかいないかに関わらず、大宇宙のなかで一つのものはすべてであり、すべてのものは一つであり、私たちそれぞれはすべての物質と共に各々完全に独立しながら、乳白色の霧という一つものとして今もなお存在し続けている。

 

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